砂の女

砂の女

2007.08.12 01:48 by mio [ 927 views ]

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安部公房の「砂の女」を読んだ。
砂の穴に落ちた男の話。

この本の表現は極めてカッコよかった。
話はあり得ないけど、描写がリアルだ。
スリルがあった。


砂に関する文章が好きだった。
以下一部引用

「砂の不毛は、ふつう考えられているように、単なる乾燥のせいなどではなく、その絶えざる流動によって、いかなる生物をも、一切うけつけようとしない点にあるらしいのだ。年中しがみついていることばかりを強要しつづける、この現実のうっとうしさとくらべて、なんという違いだろう。
 たしかに、砂は、生存には適していない。しかし、定着が、生存にとって、絶対不可欠かどうか。定着に固執しようとするからこそ、あのいとわしい競争もはじまるのではなかろうか?もし、定着をやめて、砂の流動に身をまかせてしまえば、もはや競争もありえないはずである。現に、沙漠にも花が咲き、虫やけものが住んでいる。強い適応能力を利用して、競争圏外にのがれた生き物たちだ。たとえば、彼のハンミョウ属のように・・・・・・
 流動する砂の姿を心に描きながら、彼はときおり、自分自身が流動しはじめているような錯覚にとらわれさえするのだった。」


最初は自分にとって、理解の出来ない、或いは納得のいかない、なじめない環境であっても、そこでの生活がいったん始まると、人はだんだんとそのループの中にとりこまれていく。そして、いつの間にか、その環境に順応し、その環境の中での新たな価値観を持つようになり、そこに新たな幸せを見つけるようになる、そういった人間の性質が描かれていた。と思う。

人によっては、そういった自分の意にそぐわなかった環境の中でも当初の信念を貫き通して別の世界へ、夢見た世界へ行くかもしれないし、その環境に順応して、そこでの幸せを享受するようになるかもしれない。ただ、夢見た世界が想像通りのものとは限らないし、この小説では、どっちが正しいかとか、どっちが幸せかとか、そういうことを問題にしているのではないと思う。

良いとか悪いとか、そういうことでなく、それは性質だ、というところがポイントだ。
安部公房の視点はそういうところにあったのだと思う。
砂の性質、虫の性質、人の性質。
食欲、性欲、睡眠欲、自己実現欲求、酒に、女に、ドーパミン。
謎解きっぽくて面白い。


最近は、
面白い小説を読むのは、
学ぶところが多い新書を読むのと変わらないぐらい、
意味のあることだと思うようになった。
小説の良さを改めて感じるようになった。